このところ、ラジオ・フランスの番組をネットのオンデマンドで聞くのがマイブーム。いまさらとか言われちゃいそうだけど、フランス・ミュジクのコンサートライブはもちろんのこと、番組によっては進行役のトークが絶妙だったり、ゲストが豪華だったり、何よりも構成そのものと、流す曲目がおもしろい。ラジオにハマるかどうかってのは、番組の内容だけじゃなく、ご縁というかタイミングの部分も大きいと思っているから、いまさら毎日のように聞きたくなるってのは、こちらの気分が「ラジオ文化」にちょろちょろと(ま、いまだけのことかもしれないけど)追いついてきたってことなのかも。
で、いま聴いてるのが昨日の番組。放送後、24時間の公開中。
http://www.tv-radio.com/ondemand/france_musique/figures/figures_20080804-32k.ram
進行役はアレクサンドル・タロー。彼が自分にとってフェイバリットなピアニストであるマルセル・メイエの演奏を紹介する、という構成。流した曲は、バッハのパルティータの一番、インヴェンション(抜粋)と、スカルラッティのソナタを何曲か。いずれも、つい最近に復刻されたというマルセル・メイエのCDボックスにも収録されている曲とのこと。演奏がすばらしい、というのはわたしがこんなところに記すまでもないことだから省略。
個人的に「おや」と思ったのは、スカルラッティを続けて聴いていて、もともと特にスカルラッティの曲をよく知っているわけでもなんでもないワタシが、なぜか「どれも知ってる曲ばかり」と思ったのが不思議だわ……と。よく考えてみて、理由に思い当たった。学生時代、ルヴィエに「いい曲だし、きみに向いてると思うからやってみたら」と勧められた曲が、それもルヴィエが断片的に「こんな曲だったと思うんだけど、楽譜は自分でさがしてくれ」と弾いてくれた数曲が、ほぼそのまんま入っている。ふーん。
番組でタローは「自分が17歳だったとき、コンセルヴァトワールでは誰もマルセル・メイエというひとのことも、このピアニストが得意としたレパートリーについても教えてくれなかった」と言っていたけど、少なくともルヴィエは、この録音のことをよく知っていたんだろうな、とわたしはひそかに確信する。メイエのレコードに、どのスカルラッティのソナタが収録されているからというだけではなく、演奏スタイルまで含めて、ルヴィエが弾いてみせてくれた(そして実際にそのうちの数曲はレッスンをしてもらったわけだし)ソナタは、いずれも「メイエの録音を知っているからこそ」のものだったと、いまこうして番組でメイエの演奏を聞くとよくわかる。
それと、これはあの音楽院に在籍した人間でないとわからない感覚かもしれないが、あの学校のレッスン室もしくは試験の現場でのできごとが、音楽の世界での最先端にもつながっているんだな、と実感することがたまにあったなあ、とも。たとえば、ラフマニノフ。ホロヴィッツがいなくなってからの80年代には、ラフマニノフの曲はごく一部(コンチェルトとか)をのぞいては演奏するピアニストがほとんどいなくなり、もちろんロシア系のピアニストたちはラフマニノフを弾きつづけていたのかもしれないが、それでも「あえてロシアを全面にかかげる」よりはドイツ物などを主眼においたレパートリーがメインとなりつつあったし、同じロシアというならラフマニノフよりかはプロコフィエフかスクリアビンという人が増え、ラフマニノフはいわば「流行りがすたれたレパートリー」とまでいうと言いすぎかもしれないが、めったにコンサートなどでもプログラムに入ることがなくなっていた。それが、音楽院の試験などで「音の絵」や「ソナタ」をルヴィエが自分のクラスの学生に弾かせて、彼らがそれらを自分のレパートリーとして国際コンクールや演奏会で弾いたり、デビューCDに採用したりすると、とたんにまた、世界の若手ピアニストたちの流れがラフマニノフに戻ってきた。
もちろん、曲そのものが魅力的だから、若い子たちが弾きたがるわけである。だって、プレトニョフ版のくるみ割り人形とか、シチェドリンは、彼がチャイコフスキーに優勝したときの記念盤で聴くと、誰もが「弾きたい!」と思って、また実際に弾いてみるといい編曲だから(たぶんね)ってことで、若手および中堅のピアニストたちのレパートリーにどんどんと入ってきているけど、それに比べると編曲がイマイチ(あるいはこれという演奏がまだないのか。いや、このへんはあくまでわたしの私感です)のソロピアノバージョンのラ・ヴァルスとかは、いろんな人が弾きたがるわりに・以下略。
さてと。ハンパに長くなっちゃった。けど、たとえばタロー本人はメイエの影響を受けて、フレンチバロックをモダンピアノで演奏したわけである。きっと、今後は彼の演奏に刺激を受けたという若手たちが、そのへんのレパートリーをどんどんと広めていく、という流れになるんだろうし。学生時代ってことでいうと、たとえばジャン=マリ・コテが学内の試験でシュトックハウゼンをすばらしい演奏で弾いて、もしもあれをナマで聴いた学生がいれば、ぜったいに自分もいつかはああいうふうに弾きたいと思ったはずだし。同じ試験のときに、達者だったけどどーしよーもなくつまんなかったマリジョーのオーバーマンの谷とかを聴いて、ダメだあの曲、とか思ったヤツ(笑)が、リストでいちばんマシというか自分ならこの曲が弾きたいってことで始めたダンテとかが、最初はだれも弾いてなかったはずが、いつのまにか学校で流行りだして「みんな似たようなことを考えるんだなあ」と笑った記憶がよみがえってきたり。
いずれにせよ、番組は明日(つまり今日。フランス時間の17時~)に続く、とのこと。忘れなかったらまた聴こう。
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